自動車部品サプライヤーが直面する 変革の必要性と活路

自動車部品サプライヤーが直面する 変革の必要性と活路

・自動車業界は100年に一度の変革期を迎えており、サプライヤーはOEMからの 更なるコスト削減要求に対応しつつ、成長領域への進出が求められている。そのためには、中長期的な視点の事業企画と実行管理が重要となる。

・現状の事業企画・管理プロセスでは、“エクセルバケツリレー”による手作業でのデータ収集・分析に依存しており、十分な分析工数を確保できず、意思決定の遅れの要因ともなっている。

・Anaplanは、対象を絞り込んでアジャイル型で導入することが可能な計画業務基盤であり、事業企画・管理プロセスの高度化・効率化に向けたDXソリューションとして、有効な選択肢といえる。

サプライヤーにおける経営管理の重要性が高まっている

地域的変化、CASE/MaaSによる変化に加え、COVID-19により、自動車業界はまさに100年に一度の変革期を迎えている。自動車部品サプライヤー各社も“差別化につながる価値・技術開発”、“強力なコスト低減” などの対応に迫られている。これまで単一製品のみの生産で、現行品の改善によるコスト低減に長年取り組んできた会社においても、新規事業の検討、海外への販路の拡大、戦略的M&Aなど生き残りをかけた経営判断を下さなければならない状況に直面しているのではないだろうか。

しかし、これほどの産業構造やビジネスモデルの変化が起きている中、マネジメントのあり方は変わってきているのだろうか。競争環境の拡大や複雑化の傾向が強まる中で、マネジメントのための経営管理・計数管理のあり方は、それらの変化に見合った形への適応が十分に進んでいないように見受けられる。不確実性の増す時代に適切な意思決定を下すためには、複雑化した経営管理・計数管理をグローバル統一基準で精緻化していくための基盤構築が急務といった状況に陥っている。

COVID-19による経営管理部門への影響

Deloitteが2020年8月に実施したCOVID-19の感染拡大による各企業への影響の調査をまとめたレポートDeloitte CFO Signalsの結果によると、大半の経営管理部門では、海外都市のロックダウンや国内の緊急事態宣言などの影響により決算・開示業務(単体・連結業績把握、決算処理、業績予測、決算説明会 等)に遅延等の影響が生じていたことがうかがえる。

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経営・事業管理に与える影響については、5割の会社において売上高が急速に落ち込んでいるほか、子会社の業績実績集計や見通し報告、連結業績予測の開示が遅延しているとの回答であった。COVID-19による業績把握の遅延と先行き不透明さがあいまって経営・事業の業績管理に大きな影響を与えていることがうかがえる。次いで投資の遅延・中止の影響があったとの回答であるが、上記のような状況に置かれていることから、従前の投資計画に沿った投資の実行は一度留保し、改めて優先順を精査し、投資管理を行っていくという姿勢が読み取れる。
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財務領域への影響として、運転資金・手元流動性の減少、IR業務については、投資家説明会のリモート開催・延期・中止を行った会社が多数あったことから、本決算・四半期決算の業績説明等への影響が多大だったことがうかがえる。投資家説明会のリモート開催は多くの会社で浸透してきており、アフター COVID-19のニューノーマルにおいても開催形式の選択肢として取りうるものになっていく可能性が高いと考えられる。

経営管理部門にはビジネスの意思決定の精度やスピードを上げるために必要な情報を適時適切に提供することが求められる。ビジネスが、経済(市場)・技術・社会・政治など様々な面の影響から変化している中では、提供する情報のあり方も変えなくてはならない。現在のCOVID-19の状況下で特に考慮しなくてはならないのは、情報の多様性と複雑性が増す中での情報の選別と将来の不確実性を踏まえた情報加工・分析である。

製品価値の多様化や社会創造型ビジネスに向けた多事業展開のマネジメントには、従来の自動車部品サプライヤーとしての伝統的な管理方法(製造原価中心の利益管理、工場・製造設備中心の投資管理等)からの脱却が必要となる。

経営管理部門に期待される役割

グローバルレベルでビジネスを最適化するためには、本社がGHQ(Global Headquarters)として、マネジメントする情報の適切な選別をしないと情報の波におぼれてしまう。不確実性が増している昨今では過去情報を分析・報告するだけでは不十分であり、将来の予測情報まで提示することが求められてくる。つまり、情報を正確かつ迅速に提供するだけでなく、ビジネスモデルに合わせて、経営に直結する必要な情報を選別し、今後の戦略立案に向けた予測提言まで行うこと、いわゆる経営に対する「攻め」の役割が経営管理組織に求められるのである。

一方で、従来からの正確かつ迅速な情報提供も必要で、それに「攻め」の役割を加えるということである。つまり、現状のままでは人手が不足することになる。そのため、従来の会計処理や集計作業といった単純作業は、徹底的な効率化が必要であり、いわゆる経営における「守り」の役割も同時に改善を継続していく事が求められている。

そして「攻め」と「守り」の役割を円滑に遂行するためには、グループ全体での定型業務を中心に徹底した間接業務の効率化と、グループ全体での標準化された計数管理の仕組みを構築し、卓越したビジネス感覚と情報リテラシー等を有した人材の育成をすることが不可欠となる。

経営管理部門の4つの顔

「攻め」の役割には、新規・既存事業の現状を見極め、最適なリソース配分や投資意思決定を支援するための投資管理や業績管理、各組織・個人のイノベーション創出を促進する業績評価制度が必要になる。つまりは、戦略目標達成による企業価値の向上への貢献が求められる。主にはストラテジストとしての「戦略立案への参画」、カタリストとしての「戦略実行の推進」が期待されている。

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「守り」の役割は、企業が短期志向に陥らないよう、成長戦略やイノベーションのための目標/成果を約束し、重要株主と対話を行うことで、株主/株価安定に繋げる戦略的なIR活動を推進していく必要があるだろう。つまりは、的確な業務遂行と企業価値毀損の防止への貢献が求められている。主にはスチュワードとしての「統制環境の整備」、オペレーターとしての「取引処理の実行」が期待されている。

本稿では、経営管理部門の4つの顔の中から、激変する事業環境下に対応するために必要な戦略の実行を担うカタリストの課題と解決のアプローチを詳述する。

カタリストの役割に対する課題

カタリストの役割としては、利益管理を精緻化すると共に、予実管理や改善活動の特定をより効果的に実行することが求められる。すなわち、経営管理部門がファイナンスの知見を武器に、経営数値そのものの把握・予測・分析を行うと共に、それらを通じて会社全体あるいは事業の将来像を洞察し、事業を担う人達と共に売上や収益性の改善活動に貢献することで、事業組織・機能組織の戦略実行を支援する「攻め」の役割である。

具体的には、産業構造の変化やビジネス上の提供価値の変化に対応したKPIの再設定や、製品別ライフサイクル損益管理の強化、数量ベース管理であるSCMに金額ベース管理も織り込んだS&OPの強化といったテーマに、事業部門と共に取組まれている方々も多いのではないだろうか。

サプライヤーにおける主要課題

弊社でも上記テーマに関してクライアントと議論する機会が増えてきているが、多くのサプライヤー企業において乗り越えなければいけない主要課題が大きく2つあるものと捉えている。

課題①:不確実性が増す中での戦略策定から実行におけるKPI連携や業績評価への反映が不十分

一つ目は、自動車業界の不確実性が高まっている現在の環境において、“戦略策定から実行におけるKPI連携や業績評価への反映が不十分”となっている点である。ぜひ自社に当てはめて考えてみて頂きたいのだが、例えば、各部門のKPIが全社目標と紐づいておらず部門の評価が全社の業績と連動していない、あるいは中期的な戦略に基づく投資配分や意思決定ができていない、といった状況はないだろうか。たとえ立派な戦略を立案したとしても、実行段階における仕組みが確立されていなければ絵に描いた餅に終わってしまう。

課題②:系列以外のOEMへの販路拡大を志向する中で合理的な値決めや製品コスト競争力強化が困難

二つ目は、グローバル市場で戦っていくための前提条件となる“合理的な値決めや製品コスト競争力強化が困難”となっている点である。例えば、OEMから毎期一定割合のコスト低減を要請される中で、現行品の原価低減活動だけではコスト競争力を確保できなくなっている、あるいはそもそもグローバルの各拠点・工場の実績管理手法が異なっており、横並びでの損益管理が実施できない、といった状況に思い当たる点はないだろうか。これまで以上に事業活動のリーン化・効率化や自社製品の差別化が求められる中で、コアとなる原価企画・管理が脆弱なままグローバル市場で伍していくことは難しいであろう。加えて、系列以外のOEMとの販路拡大を志向するためには、原価の見える化を前提とした合理的かつ競争力のあるプライシングが不可欠である。

課題に対する処方箋:PBF(Planning, Budgeting and Forecasting)

ではカタリストの役割における主要課題をどのように乗り越えていけばよいのだろうか。以下、弊社が考える課題解決のためのアプローチの一つをご紹介したい。

処方箋:シナリオプランニングに基づく高度な“柔軟性”と“即時対応力”を兼ね備えたPBF*マネジメント
まず、課題①”戦略策定から実行におけるKPI連携や業績評価への反映が不十分”という課題に対しては、「シナリオプランニングに基づく高度な“柔軟性”と“即時対応力”を兼ね備えたPBFマネジメント」が有効な処方箋と考えている。この取り組みにあたって重要なポイントは、①戦略目標・施策統合、②即時連携型予算編成、③シミュレーションモデル構築の3点である。
* PBF:Planning, Budgeting and Forecastingの略であり、計画、予算、予測の各プロセスを指す。

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ポイント①:Planningにおける戦略目標・施策統合

まず、計画策定時において、戦略目標から中計、予算展開に用いられる各種前提情報の可視化・構造化を図ることが重要である。昨今、事業活動の多様化や需要・競合環境の複雑化を背景として、各事業や機能ごとに事業計画等の根拠・解釈がブラックボックス化してしまっているケースが散見されるが、事業計画等の根拠・解釈の統一化を図ることで、各事業の業績を客観的に評価できる土台を整備する効果が見込まれる。

ポイント②:Budgetingにおける即時連携型予算編成

次に、各年度の予算編成時において、地域・機能等の多様な管理軸ごとのシームレスかつリアルタイムな予算編成・調整を実現することが重要である。昨今、クラウド型EPMの隆盛によりエクセル型予算編成からの脱却を目指す企業が増えてきているが、予算策定期間の短縮や調整コストの削減といった定量効果のみならず、データガバナンスの向上といった定性効果も見込まれる。

ポイント③:Forecastingにおけるシミュレーションモデル構築

更に、期中予測時において、自動車業界においては需要・競合環境の変動が激しく、期中の予測見直しの頻発は避けられないため、いかに効率的な予測プロセスを構築するかが重要となる。そこで、予測数値の算出方法のモデル化や、最新データの取得・活用シミュレーションモデルを構築することによって、着地見込、実績とのかい離状況を適時に把握し、早期に対応策の立案・実行に繋げることが可能になる。


参考URL

デロイト トーマツコンサルティング Crunch Time - 決断の時
デロイト トーマツ & Anaplan 次世代コネクティッドプランニング